9月5日に教え子の前田智大とイベントをやるんです。前田は66回生で、MIT(マサチューセッツ工科大学)に進みました。灘校からMITになんて聞くと、簡単に「天才」と言う人がいますよね。でも、少なくとも前田は天才ではありません。中学時代から目をキラキラさせて、いろんなことにチャレンジするタイプでした。むしろ、不器用なほうではなかったかと思います。
前田の印象を聞かれると、廊下でダンスをしている生徒と答えます。文化祭のステージでも平気な顔をしてバク転し、あれはなんて言うダンスなのかは知らないけど、アクロバティックなダンスで観客を魅了していました。
先日、前田からFacebook(Messenger)で連絡がありましてね。お元気ですかと。僕はてっきりアメリカにいるものだと思っていたら、帰国して起業したんですと言います。そこからの話が速かったのは、6年間一緒に過ごした阿吽の呼吸によるものなんでしょうね。教育系の企業を立ち上げた教え子と一緒にイベントができることを嬉しく思っています。
震災以来続けてきた福島でのボランティア活動に、前田が参加してくれたことがあります。福島の高校生たちの前で、彼はこのようなことを言いました。「木村先生は、平気な顔をしてとんでもない反復を要求する。でも僕は負けたくなかったので、『ユメタン』の音読を家で5回やっておいでと言われたら10回やった。文章の音読を10回やってきてねと言われたら20回やった。気がついたら英語がめちゃくちゃできるようになっていた」と。
福島の生徒たちが前田を見る目が違っていました。そしてその後は言うまでもありませんが、生徒たちは僕が要求した音読回数が終わっても何度も何度も音読し、そしてたくさんの単語や文章を頭に刷り込んでいました。多くの生徒たちが朝早くから起きて、合宿先のお寺の本堂で音読を繰り返していました。ボランティアを手伝ってくださった柴原智幸先生以下、スタッフの先生方が信じられないと繰り返しておられました。
前田智大は天才ではありません。しっかりと学んできたのです。世間がどう褒め称えようとも、たかだか灘校の合格程度で、あるいは東大やMITの合格程度で満足せず、自分を磨いてきた人だと断言します。その彼と小学生の保護者や指導者を対象にして、勉強への考え方をインスパイアできるイベントを開催させていただくことを、嬉しく思っています。9月5日、よろしくお願いします。
木村達哉拝