セミナーや講演会のあとはお礼状を出すようにしています。参加してくださった方々に対する感謝の気持ちって、口ではありがとうございますと申し上げるのですが、伝わりにくいものです。「ありがとう」って軽く口に出しがちなので(なかなか言わない人もいらっしゃいますが)、逆に伝わりにくいんですね。言ってみてください、「ありがとう」って。ね、すぐに消えてしまったでしょ。伝わりにくいんです。心を尽くさないと感謝って伝わらない。
以前、こういうことがありました。沖縄が好きな僕は、昭和薬科大学付属高校という学校から講演依頼をいただきまして、嬉しく思っていました。初めて沖縄の学校から依頼が来た!と。翌年、興南高校からもご依頼がありました。興南は甲子園で春夏連覇をした学校です。野球の好きな僕は舞い上がりました。我喜屋先生(理事長兼校長兼野球部監督)にお会いできるのを楽しみにして興南に向かいました。
懇親会で、沖縄の教育について伺いました。もっと子どもたちの成績を上げたいという気持ちも。そして僕の経験が力になれるならなりたいなぁと、強く思いました。それから数年後にNPOおきなわ学びのネットワークを立ち上げ、我喜屋先生に理事長になっていただきました。いろんな学校をまわったり、興南の視聴覚教室をお借りして無料勉強会を行ったりしました。
そんなある時のこと。ある学校でこういうことを言われました。
「なんだかんだ言って、自分の本を売りたいんでしょ?」と。
ホテル代も飛行機代も自腹でしたし、講演料もいただいていません。その先生の学校の生徒たちが全員『ユメタン』を買ってくださったとしても、著者の僕に入る印税は片道の飛行機代にもなりません。お金が欲しいなら沖縄に来ないほうがいいのです。沖縄に来るたびに大赤字なのです。そう言いたかったけど、言ってもわかってもらえないだろうなと思って、とても悲しくなりました。そして、おそらくは僕よりも前に、お金儲けのために活動をする人たちがいらっしゃって、沖縄の人たちが酷い目に遭ってこられたんだろうなと推察しました。
お金のためじゃない!と強く訴えかけてもおそらく伝わらないだろうなぁ、どうしたらいいのかなぁ。そんなことを考えながら、関西に帰りました。翌日、大阪の三線ショップに行って、一番安い三線を買いました。演奏できるかどうかはわからなかったけど、学生時代にギターを弾いていたので何とかなるんじゃないかと思ったのです。一生懸命に練習しました。「島唄」「島人ぬ宝」「涙そうそう」など。
数か月後、その三線を持って沖縄に行きました。そして勉強会の休憩中に演奏しました。何度も間違えましたけど。すると「なんだかんだ言って」と言った先生が近づいてきて、悪かったと頭をおさげになりました。懇親会でも僕の三線に耳を傾けてくださいました。木村さんはウチナーンチュじゃないけど、ウチナーンチぐらいにはなってるね!と笑いながら言ってくださいました。嬉しかったです。
心は簡単には伝わらないと思っています。どうしたらいいのかわからないぐらい伝わらない。心を尽くさないと伝わらない。否、尽くしても伝わらない。でも、尽くすしかないなぁと思っています。沖縄で多くの友達ができたときのように。お礼状を出し、季節のご挨拶状を出し、LINEやMessengerでやり取りをしているうちに、ひとり、またひとりと、友達になってくださる方が増えていきます。
「なんだかんだ言って売りたいんでしょ」と言った先生をたびたび思い出しています。そして、心はなかなか伝わらないことを思い出しています。だから、僕は毎日誰かに向けてお礼状を書いています。毎日1枚でも2枚でも。心よ、伝われ!と念じながら。尽くしていれば、もしかしたら伝わるかもしれないなぁと思いながら。
木村達哉拝