講演やセミナーで主催者さんが僕を紹介する際、よく使われていた肩書きは「元・灘中学校高等学校教諭」なのですが、最近はあまり使われなくなってきて喜んでいます。いつまで前の職場を引きずってるねんって話ですから。現在は「作家」とか「関西学院大学フェロー」とか「新潟産業大学客員教授」とかが使われるようになってきて、場合によっては「NPOおきなわ学びのネットワーク理事」や「NPOふくしま学びのネットワーク特任アドバイザー」なども紹介していただけます。
訪問する学校がお茶目だと「お笑い芸人」とか「噺家」などを加えてくださいます。肩書きを僕が指定することはありませんので、適当に考えていただければいいのですが、一応は芸能事務所に所属はしていますけどお笑い芸人ではありませんし、言うまでもなくタレントでもありません。が、所属している事務所オリジン・コーポレーションのHPを見ると、タレント欄に載っているじゃないですか。だから「タレント」でもいいかと思っています。
トランペットの日野皓正さんの名刺を見て、自分もこうなれればいいなと思ったことがあるんです。彼の名刺には肩書きがなく、中央に「日野皓正」としか書かれていなかったんです。名前だけで相手に通じるって凄いことだなぁと思いましてね。僕もいつかは「木村達哉」としか書かれていない名刺を持ってやるぞと思ったものです。それが20代のことでした。
昨年3月に灘校を辞めるまでは「灘中学校・高等学校英語科教諭」という肩書きを名刺につけていたのですが、早くそれを取りたくて、辞めると同時にその名刺はすべて捨てました。そして、2種類の名刺を作りましてね。1つには木村達哉事務所の所在地や電話番号が付いた、つまり相手の方が僕に連絡をするための名刺、そしてもう1つは20代の頃から憧れていた名刺です。
表側に「作家 木村達哉」とあるだけで、他にはなにも書かれていません。いや、もちろん名前だけで勝負できるほど大した人間ではありません。そんなことは自分が一番よくわかっているんです。でもね、この名刺でもじゅうぶんやっていけるほど大した人間になってやろうと思って頑張るのです。ビッグ(これもう死語だけどね)になる前に、先にビッグっぽい名刺を作ったんです。
先日、作家の松永多佳倫さんと飲んだとき、「作家」も取っちゃったらいいのにと言われました。いろんな活動をしていますからね。「作家」も要らないかなぁなんて思いながら、でも国際的なトランぺッターを思い出しては、いやいや、せめて「作家」は残しておいたほうがいいんじゃないかと思いつつ、いつかは!と闘志をたぎらせている木村なのです。
たかが名刺、されど名刺。
木村達哉拝