尚学館中学校高等部の講演のあとに質疑応答がありましてね。ある生徒から、多義語が覚えきれないのですがどうすればいいでしょうかという質問がありました。僕は「覚えたことがない」と答えました。生徒たちは一斉にエー!?という声を上げました。
English Nativeの人たちだって、それぞれの多義語の意味をひとつずつ覚えていないと思うよ。むしろ使いながら、読みながら、こういうときにも使えるのかと思いながら習得しているはずだし、したがって読書量の少ないEnglish Nativeの場合、あまり英語が得意じゃなくて、多義語なんかも使いこなせていないはずだけど、と答えました。
それで1つ思い出しました。先日、アメリカのスポーツニュースを読んでいたところ、ミシガン州の大学生が試合で不正投球をしていたと報じられていました。グラブ(グローブ)にカッターナイフを仕込んでボールに傷をつけると変化球がものすごい曲がり方をします。また、グラブにグリース(べたべたの油)をつけても同じことになります。この投手は後者でした。
英語ではこう書かれていました。
Michigan pitcher gets ejected after umpires find a foreign substance on his glove.
日本語に直すと「ミシガン州の投手がグローブに付着した異物を審判に発見され、退場させられた」というような意味です。で、この foreign という形容詞ですが、同じ意味の文を仮に英作しなさいと言われたら、あなたは foreign が使えますか。
「異物が混入しているのが見つかった」を英語で表現するとwas found to contain a foreign objectなんてふうになるのですが、学校でよく出てくるforeignは「外国の」という意味ですよね。ここで「お!foreignは多義語なんだ!」と思って必死に覚えるのではなく、foreignの持っている雰囲気、ニュアンス、言葉のふわっとした意味をとらえることが大事なんです。異質な感じを掴むわけです。僕たち日本人がニューヨークの街を歩くと、僕たちはforeignな存在となるのですね。
signなんかでも同じです。なにかを示してくれているものなんだなぁというふうにとらえるのです。そのうえで文章を読んだり書いたり喋ったりする際に「合図」とか「ネオンサイン」とか「記号」とか「証拠」とかいった意味で使われることを知り、覚えるというよりも「そうなんだ」という感覚を大事にするわけですね。決して全力で覚えるという感じではありません。
教科書だけでなく、いろんなものを読み、出てきた「多義語」のニュアンスを掴みましょう。そうすると決して多義語というわけではないということがわかるんじゃないかなぁと思いますし、実はほとんどの単語が多義語だということもわかるはずです。effortは「努力」という意味ですが、でも「作品」という意味もありますし、「取り組み」という意味もありますし、「てこの力点」という意味もあります。大事なのは覚えることではなく、雰囲気を掴むことなのです。
木村達哉拝