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10冊の絵本を

2022.07.26(火) 03:00

行きつけの焼肉屋さんがあるんです。西宮市の今津駅から歩いてすぐのお店です。肉も美味いんですけど、キムチがよく漬かっていて超絶美味いんです。焼肉屋の良し悪しって、お肉よりむしろ肉以外にも力を注いでいるかどうかでわかりますよね?(知らんがなという声もあるだろうが無視する)

大将はもう82歳です。お元気ですけれども、さすがにコロナ禍で大変そうでした。「お客さんが来ぇへんねん」という台詞を何度聞いたかわかりません。ただ、僕はそのお店に行き続けました。祖母の遺言で「ゴルフをした日は必ず焼肉を食べや」というのがありましてね。ですから、ラウンドの日はコロナであろうと大雨であろうと焼肉なのです。

行くたびに「木村さん、何してはる人なん?」と聞かれていたのですが、僕は頑として「フリーター」「自由業」「プロゴルファー」などと答えておりました。別に隠していたわけではないのですが、わざわざ発表するようなことでもないですから、そう答えていました。

その大将に『あなたのちからになりたくて』をプレゼントしたんです。ばれるなぁと思ったのですが、しょうがありません。それよりも絵本を見てほしかったのです。プレゼントした日は「へぇ、こんなん作ってる人なんや」で終わりました。お店もそれなりに忙しかったですからね。

次に行ったときに、大将が「灘校の先生やったん!」と。息子さんの奥様も挨拶にいらっしゃり、「うちの子どもが弱っていたのですが、絵本を見て元気になりました」と嬉しそうに。そもそも「実はうちの子たちの学校は〇〇高校と▼▼高校なんですが、二人とも『ユメタン』を使っているんです」と。もろもろ嬉しいことがありまして、またその日も終わりました。

最近、そのお店に行ったとき、大将が「絵本、10冊買いたいねんけど、どないしたらいいの?」と言ってくれました。「10冊!まじで?ありがとう!なんで?」「孫たちにあげよう思ってな。それに、コロナで誰もお客さん来ないときも、ずっと木村さんだけは来てくれてたからな」とおっしゃいました。

人間、腹が立ってしょうがないときや悲しくて音楽が耳から入ってこないときもありますが、こうしてもたれあいながら生きているんですね。明日はゴルフに行くわけではありませんが、大将に10冊持っていこうと思っています。なにしろamazonで買えるよと言っても、「わし、そんな遠くまで行かれへんわ」という人なので。お孫さんたちに喜んでもらえればいいなと思っています。

木村達哉拝