信じられないだろうが、大晦日放送の歌番組からオファーがあった。断る理由はない。人生初の歌番組出演である。かなり気合いを入れて、そして心を込めて、「ど根性ガエル」を歌わせていただいた。
radikoで聞いたが、歌よりもむしろ司会の方々が「まさかや。キムタツさんってこういう人だったんですね!」と盛り上がっていらっしゃったのが印象に残った。「灘校の」という枕詞が付いていた時代が長かったので、生真面目な人間だと誤解されているのだろう。
歌い終わったあとにマイクを向けられたので「来年はNHKの紅白歌合戦に出場する予定です」と答えたが、聴いている人が少数だったのか今のところTwitterも炎上していない。真剣に歌手をやっている人たちからすればナンデコイツガシュツエンスルノダということになるのだろうが、オファーをいただいたのだから仕方ない。
2月にはドラゴンズファンの書店ミーティングでの鼎談に登壇するが、こちらは「英語教師」という肩書きになっている。ある学校の講演では「お笑い芸人」の5文字が垂れ幕の名前の前に書かれていたし、福島や沖縄では「NPO学びのネットワーク理事」などと書かれている。言うまでもないが「作家」と紹介されることは圧倒的に多い。
最近、本業は何ですかというくだらない質問をされることがなくなったのはいいことである。平成時代までの日本ならまだしも、副業を認める組織が増えてきているこの国で、「これは本業あれは副業」という考えでいること自体がナンセンスである。
二兎を追う者は一兎をも得ずという言葉があるが、二兎しか追わないような人間が何を成し遂げるというのだろう。追いかける兎は多ければ多いほどいい。五匹や十匹を追いかけていれば一兎ぐらいは捕まえられるかもしれないのである。日本の経済や政治や教育が衰退してしまった原因のひとつに「二兎を追う者は」の考えが根づいていることが数えられるのではないか。
そんなわけで、歌手という肩書きを身に纏ったわけではないが、人生初の歌番組出演に心浮き立つ思いを抱いたことを報告し、今年の大晦日にはNHKからオファーが舞い込むことを今から楽しみにしているのである。
木村達哉拝