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東京都が私立中通学世帯に10万円を助成する件で

2023.01.21(土) 08:00

東京都は、私立中学校に子どもを通わせている世帯に、年間10万円(単純計算で月額約8330円)を助成するそうだ。所得制限付きとは言っても年収910万円未満ということなので平均よりはかなり豊かな世帯に、である。

以前、灘中学校で受け持っていた生徒に尋ねたことがある。小学生時代の塾代がどれぐらいか君たちは知っているのか、と。ある生徒がしれっと答えた額は、私の月給をはるかに超えていた。8月や12月の夏期講習と冬期講習となると、驚くなかれ、約50万円が塾代として消えていったそうだ。

当時思っていたのは、親も大変な思いをして灘中学校に子どもを送り込んだんだなぁということ。更には、不合格になった子どもは辛いだろうが、親も相当落ち込んでいるだろうということ。そして、もしも息子が灘校に行きたいと言い出したら諦めさせるのにどんな手を使えばいいんだろうということだ。

学年に何人かは塾に行ったことがないという生徒もいたが、そういう子は小学生の遊びたい盛りに自分を律して勉強していたわけで、したがって実によくできた。灘校など来なくても、あっさりと東京大であろうと何大であろうと合格するだろうと思わずにはいられない、いわば秀才であった。

が、ほとんどの生徒が塾によって作られた「天才」であり、したがって普通の子たちであった。灘校の子たちはよくできるでしょうと言われることがあるが、勤務していた23年間で私を「こいつは凄い」と唸らせたのは片手に余る。普通の子を灘中学校に合格させたい親の所得はそれに耐えうるものでなければならない。要するに「普通の家庭」ではない。

その世帯に月額8330円を助成するというのだが、私が抱いた印象は「鬼に金棒」というより「すずめの涙」である。月額50万円の塾代を支払う世帯にとって、そりゃ何もないよりはいいかもしれないが、「これっぽちのカネ」だと言える。

加えて、ここが肝心なところだが、この助成金が少子化対策の一環として導入されるのであれば、まったく効果を発揮しないだろう。子どもを増やすか否かで迷っている夫婦に、私学に行っても月額8330円を支払いますから大丈夫ですよと言っても、それなら産もうとはならないだろう。したがって、少子化対策という意味では死にガネとなる。

さらに、東京都に住民票を置く世帯の子どもが灘中学校(兵庫)やラ・サール中学校(鹿児島)に通っている場合でもその助成金は支払われるのだろう。教育費を負担している親が東京にいるのだからと言われればそうかもしれないが、どうにも気持ち悪さは残る。

多少のカネのばらまきで少子化を乗り切れると考えるのは無理筋というものだ。現在、日本人の平均年間所得は約443万円という報道がある。一方で子どもひとりを育てるのにかかる総費用は数千万ということであり、したがって一般的な家庭で子どもを増やし育てることにはかなりの勇気が必要である。

子どもを安心して産める環境を、カネだけではなく親の労働環境や社会的支援も含めて作っていくことこそ重要ではないか。明石市の泉市長が推し進めているような施策を国が講じない限り、危機的少子化はさらに進んでいくように思われる。

木村達哉拝

追記
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