丸善&ジュンク堂書店渋谷店が閉店と聞いて驚いた。同店には何回足を踏み入れたかわからない。職業柄、いろんな街の書店さんを訪問するが、行くたびにお客さんが少ないなぁ、これじゃあ書店経営もなぁと思うものだ。
初めて本を出したとき、世の中ではAmazonが闊歩し始めていたのだが、まだ書店にはヒトがいた。ただ、書店を訪れるたびに思ったのは、この商売は今後消えていく可能性が高いなということ。もちろんそれを望んでいるわけではない。
ひとつにはEC(ネット通販)の充実が挙げられる。書店に足を向けなくても自宅に届くシステムは極めて便利で、特に体が不自由な方やお年寄りにとっては利用価値の高いものである。ただ、現在の書店が消えていく理由はなにもECの充実と浸透だけではない。
たとえば、私のスマホには毎日のように、頼みもしていないのに、ユニクロやニトリやブルックスからメルマガが届く。メルマガを開くことはほとんどない(あ、コーヒーがそろそろないわというときは開くけれど)が、この「毎日のように届く」というのがミソである。
ザイオンス効果である。同じ人やモノに接する回数が多いほど、その対象に対して好印象を持つようになる心理現象をザイオンス効果というのだが、LINEのメルマガにはそういう効果が確実にある。家具を買う際には、ほとんど必ずニトリへと車を走らせる。服を買う際には、よほど決まったブランドがある場合を除いて、ユニクロへ向かう。メルマガを読んでいないのに、である。
書店はどうだろう。メルマガを発行している書店もあると聞くが、少なくとも物書きの私にはどこからも届かない。書店からのメルマガがユニクロ並みに届いているヒトがどれぐらいいらっしゃるのだろう。書店は街にデンと構え、来るヒトを静かに待っている、言うなれば殿様商売なのであり、それでは現代のビジネスでは長続きしない。
ジュンク堂書店那覇店の森本店長からよく連絡がある。イベントやってもらえません?という軽いMessengerが届く。いいですけど、いつですか?と返事をし、数十秒後には日にちだけがフィックスしている。那覇店の面白いところは、書籍とは無関係のイベント、たとえばお笑い芸人のトークショーや落語の寄席なども開催されること。やってきた人々は笑い、そして本をついでに買っていく。
ヒトが店に足を運ぶためには理由が必要だ。いくら品揃えが良くても、お客さんが来なければどうしようもない。Amazonは自宅に届くだろうけれども、この店にはこんな付加価値があるから来ないと損だぞという要素が必要なのである。
街の書店がひとつずつ消えていくのは、日本の書店文化が消えていくことで、非常に寂しい。書店だけでなく、われわれ物書きもまた、一緒にその文化を守っていかなければならない。人々は忙しい。しかし、いくら忙しくてもこの書店には行きたいという店作りをそれぞれの書店さんにはお願いしたいし、私だけではなくどの作家もおそらく、そのための協力は惜しまない。
木村達哉拝