物事を長い目で見るのは実に大事なことだなと考えている。素敵なことがあったときは無邪気に喜ぶことにしているが、それにしたってそういうことが続くわけではない。油断していると急転直下、傷だらけになる。

私は作家である。本を書いて糊口をしのいでいる。しかし、本なんて5000冊売れれば御の字の商品だ。Amazonの絵本部門で１位になりました！な私の絵本『あなたのちからになりたくて』もまだ1000冊にさえ届いていない。したがって増刷には至っていない。

確かに『新ユメタン』は250万部を突破したし、『東大英語リスニング』のおかげで「東大生が選ぶ東大な人」に選んでもらった。が、作家である以上は次作を代表作にしたいと思うものだ。増刷がかかって喜ぶ日もあるが、自分を戒めていないと次作が出せなくなる。出版社からのオファーが届かなくなる。そうなっては死んだも同然である。

ネガティブなことがあった日も長い目で物事を見ることができるかどうかで心の健康は違ったものになる。サラリーマンじゃなくなって以来２年が経つが、おかげで誰かから叩かれる機会がなくなった。気持ちはずいぶん楽になった。しかし、それにしたって、今日はダメだったなぁ、参ったなぁとため息をつく日はある。

そんなとき、「これが続くわけではない」と自分をあまり否定しないことだ。子どもの頃、頭やおなかが痛くなることがよくあった。しかし、母親からの「寝たら治る」という言葉が最もよく効く薬になった。ネガティブなことも「寝たら治る」と高を括ることが大事なのだろう。

結局のところ、良い事があっても悪い事があっても「これが続くわけではない」と自分に言い聞かせ、新しい自分に向き合うことが人間というのは大切なのだろう。人間万事塞翁が馬。今に一喜一憂せず、５年ほど前を常に見ながら、幸せに生きるために粛々と自分を鍛える他ないのだろうなと思っている。

木村達哉

追記
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