お亡くなりになった安倍元首相が第一次政権を執っておられたときに教員免許更新制度ができた。私はただの一度も更新したことがない。この制度の抜け道を知っていたからである。55歳のときにも、紙きれ1枚を文科省に提出するだけで更新を免れた。私だけではない。知っている教員は学校と相談のうえですべてそうした。
民主党が教員免許更新制度を廃止するというマニフェストを掲げたとき、多くの教員たちが希望に胸を膨らませたが、極めて短期間に終わった新政権が制度を撤廃するにはいたらず、ここかしこの職員室からため息が漏れていた。
先生方がクソの役にも立ちそうもない、自分の専門とは無関係の講座を自腹切って取らねばならず、それでも前向きになろうとして「それなりには面白い」などと仰るのを見てきた。大学の知り合いからは、そもそも時限免許じゃなかったはずなのに、どうして先生方は誰も訴訟を起こさないのかと声をかけられた。
教員をある時期から無力にした歴史が日本にはあり、残念ながら政治や経済に疎い先生方が多数派となった。教育の歴史を少しでも勉強すれば、文部省(現在の文科省)や法律ではないはずの学習指導要領がどのようにして力を肥大化させてきたのかがわかる。それはここでは書かないが、興味のある方は簡単な教育史を繙かれるべきだ。
免許更新制度ができた際、こんなに教員が嫌いな首相が指揮をとる国で、果たして教員になりたいというマゾヒストはいるのかと思っていた。案の定というべきか、昨今ではやりがいと夢を失った教員が予備校や教育企業に移り始めた。ご存じのとおり、教員不足のニュースは後を絶たない。そして誰もいなくなったを体現しているようだ。
一方で、企業は売り手市場。大卒新人の初任給が35万とか45万とかいったニュースが流れてくる。教員の残業手当云々というみみっちいニュースに比べて、どんなに景気の良いことか。大学生はかなり早い段階で内定をいくつももらっている。就職希望の高校生たちも然りである。
5年後10年後の大学卒業生数を考えると(大学進学率は一定とする)少子化よりもむしろ教員不足が原因で公教育は破綻するだろう。神戸新聞に兵庫県の不足数が報じられていたが、この数字はこれから年々信じられないぐらい膨らんでいくだろう。子どもの小遣い程度の賃上げでは到底解消されないと思われるが、さて、自民党公明党はどうするかな。
木村達哉
追記
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