アルクだけは増刷のたびに連絡をくれるのが嬉しい。他の出版社は、もちろん売れたぶんだけの食い扶持を振り込んではくれるのだけれども、アルク以外の出版社からの連絡はほとんどない。その点でいつも連絡をくださるアルク編集者の良心(なのかそういう決まりなのか)には感謝している。
作家は0を1にするのが仕事である。自分が学んだことを他の方にお裾分けしたいと思うところがスタート。企画書を書き、出版社にそれを見てもらわねばならない。OKが出なければ他の版元に持っていくが、もしOKが出たら担当者が決まり、いよいよ書き始める。台割を作り、それにしたがって創作していくのである。0だったものが少しずつ1に近づいていく。創作というのは世になかったものが姿を現すことであるから、わくわくしながら1を目指す。
一方、編集者は1を100にするのが仕事である。物書きがなんとかかんとか書き上げた!これ以上の推敲は許さない!ようやく脱稿した!と思っても、入口でしかない。物書きが0を1にしたあと、編集者がその1を100にしてくれるから書店に並ぶのである。編集者だけでなくデザイナーや、私の本の場合だと複数の英語ネイティブスピーカーが2人以上入ることになる。私が完璧だと思った原稿がどんどん姿を変えていく。面白いわけがない。が、しかたない。
英語の音声が伴う本(単語集やリスニング)の場合、スタジオに入って音質や読み上げ速度をチェックする。駄目だと思ったらスタジオスタッフに遠慮なく申し上げる。もっと速くしてください。もっとクリアな音質にしてください等など。
こうして数多くの職人たちに手を加えられて出来上がった原稿もまだ初稿でしかない。最終稿までさらに何人もの目と手が入り続ける。物書きが脱稿したと思ったあと、実際に書店に本が並ぶのは半年以上後なのである。それでも誤植やミスがあるのだ。
編集者は物書きに駄目だしをするのが仕事なので、作家仲間の中には編集者は敵だと言う人もいる。が、私はそうは思わない。そのかわり私も彼ら彼女らに好きなことを言わせてもらう。お互いが遠慮していては良い本にならないからである。
このたび、『新ユメサク』と『東大英語リスニングBasic』が増刷になった。買ってくださった皆さんのおかげで、また次の本を創ることができる。感謝しながら、次作こそ自分の代表作にできるよう、編集者諸氏とともにいい仕事をしていこう。
木村達哉
追記
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