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単語は忘れても構わないが

2023.09.27(水) 08:00

9月27日。明日明後日は山形県酒田市である。県立酒田西高校ではずっと『新ユメタン』を生徒たちに配付して指導されているが、著者が行くことで化学変化が起こるだろうと毎年呼んでくださっている。私の講演や授業で成績が即座に上がるわけではない。しかし、やる気が噴出する生徒たちはいる。そこが狙いではないかといつも考えて話している。

特に英語が得意ではないという生徒の場合、たいていの場合は語彙か文法に問題がある。この文法には日本語とは違う語順であったり、日本語にはない冠詞や動詞の変化なども含まれる。本来であれば中1から中2にかけて、九九と同じように声を出しながら覚えるものを覚えてこなかったか、あるいは教師に恵まれずに覚えさせられなかったのかのどちらかだ。

無味乾燥な暗記には意味がないと言う人がいる。が、それは間違いである。九九を覚えるときも「なんじゃこりゃ」と思いながら覚えるのである。大学に入ってドイツ語やフランス語を選択すると冠詞の変化を「意味もなく」覚えることになるのである。それが後に威力を発揮する。暗記に意味がないというのは詭弁であり、危険である。

暗記をする際には忘れることを意識する。いま覚えているこれはきっと明日には忘れているだろうなと思いながら暗記するのだ。忘れても構わないのである。というよりもむしろ、どうせ忘れる。忘れたら覚え直せばいいだけである。我々はそうやって大切なことを覚えてきたのである。私などは担当の生徒の名前をすべて覚えるのがだいたい中2の8月か9月であった。何度も指名したり声をかけたりしながら、覚えられない生徒に接しながら覚えるのである。

英単語や古文単語だって同じである。すぐに覚えられないと投げ出すと一生覚えられない可能性もある。忘れても構わないから、とにかくいったんは覚えるのである。忘れてしまうので、翌日にも覚え直すのである。翌週にも触れるのである。そうしている間に60%ほど覚えることになる。残りの40%だけをピックアップして、また同様に覚えていく。

苦労して覚えても1年も経てば忘れる。だから、英単語の暗記なんてものは一生ものなのだ。英語をやるぞと決めたらずっと触れておくしかない。我々のように英語のプロであってもそんなもので、そりゃ世の中に出ているような受験用単語集に出ている程度ならmountainやmicrowaveと同じぐらいの感覚で意味が言えるが、vomitus gravidarumやcredit expansionあたりだと一瞬ウっとなることもあるのだ。

忘れても構わない。また覚え直すから。そういう気持ちを抱きながら、毎日のように自分で作った単語集(知らない単語や表現を書き連ねたノート)に向かう。あぁそうだったそうだったと頷きながら、忘れてしまった英語たちにごめんごめんと頭を下げながら、またぞろ覚え直すのである。酒田西高校の生徒たちにはそういう話をしようと考えている。

木村達哉

追記
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