灘校を退職したら、2週間ほどメルボルンに滞在する予定だったのです。3年前に退職することを決めまして、それから粛々と準備を進めてきました。生徒たちの進路保証をするのは言うまでもないのですが、自分の人生の準備を怠りなく行うことは必要ですからね。年金を楽しみに生きるほど、私は老人ではありません。最悪でも80歳まで生きるとしても、まだ23年もあります。
現状維持で良ければ生きていけるんじゃないですかと言われます。とんでもない!現状維持のためには、常に新しいことをしておかねばなりません。現状維持に甘んじた企業の多くが破綻していくのを子どもの頃からながめてきました。「現状維持のためにはsomething newを求めるべし」は、人生の数少ない真理のひとつと言ってもいいと思っています。
鎌倉学園に勤めておられた高木俊輔さんがメルボルン大学で学んでおられるのです。私の勉強会のレギュラーメンバーだった彼には、逆にいろんなことを教えてもらいました。で、高木さん(普段は俊輔!と呼んでいますが)がメルボルンにいる間に、まだ行ったことのないオーストラリアで精神のカタルシスを図ろうと思っていたら、新型コロナウィルスです。
海外と言えば昔の日本人はハワイ一色でした。私の母も「ハワイと北海道に一回は行きたい」と言って、結局どちらにも行けずじまいでした。昭和の海外は、多くの日本人にとっては間違いなくハワイと同義語でした。現在は、ハワイに行ってきたと言っても、ほとんど北海道や沖縄に行ってきたのと同じような感覚で受け止められます。それはおそらく良いことだと思います。
せっかく生まれてきたのです。生きている間にいろんな場所を見て、いろんな経験をしておくことは素敵なことです。家族旅行と言えば毎年沖縄なんですよ!という人もいますし、それぞれの家の好みもあるでしょうから否定はしません。しかし、子どもを毎年沖縄に連れていくより、北海道に連れていく年もあれば、北陸地方に連れていく年もあるというほうが子どもにとってはいいでしょうね。東北をレンタカーでまわりながら旅行をするのもいいのではないでしょうか。いろんな場所を訪れることで、いろんな経験ができ、それが子どもたちの、もちろん大人にとっても、貴重な財産になります。
海外も同じ。今は新型コロナのせいで移動することができませんが、今まで行ったことのない場所に行って、本やウェブサイトで見るのとは確実に異なる現地を感じることは大切です。机上で身につける知識だけではなく、経験に基づく知恵こそ生きる上では貴重なもので、それは行動と経験によってしか身につかないのですね。経験値を上げようとすること、まだしたことのないことをしようとすること、まだ行ったことのない場所に行こうとすることは、知恵を身につけるうえで極めて貴重な姿勢です。
私に関して言えば、中国・韓国・台湾・シンガポール・イギリス・フランス・アメリカ合衆国・タヒチには行きましたが、オーストラリア大陸への上陸を果たしていません。ロシアにも南米にもアフリカ大陸にも、もっと言えば南極大陸にも行ったことがありません。生きている間に足を運び、人々の暮らしや街の様子、海や山や風を経験したいなぁと強く思っています。
木村達哉拝