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採用時期を早めると教員志望者が増えると考える愚

2024.06.15(土) 10:00

6月15日。新聞を読んでいると首をひねることが多い。文部科学省が、2024年度は6月16日を標準日としている公立学校の教員採用試験について、来年度はさらに一か月ほど前倒しにするよう都道府県教育委員会に要請するというニュースを目にした。教員不足を解消するために採用時期を早めるということである。

客が来ない不味いラーメン屋があるとする。店主が開店時間を早めたり朝ラーメンを始めたりすると効果があるんじゃないかと考えたとすれば噴飯ものである。ラーメンを美味しくすることを考えなければそのラーメン屋には未来などない。

どうすれば教員志望者が増えるだろうと考えるより、どうすれば魅力のある職場になるだろうと考えることが先である。灘校の場合は授業に合わせて出勤し、授業が終われば退勤する先生方が多く、それが許されていた。部活動は、ひとりの先生が複数のクラブを担当してはいるけれども普段の指導は持ち回り。体育科の先生方を除くと、週に何度もグラウンドや体育館に顔を出すということなどなかった。今日はA先生、明日はB先生、明後日は部活なし。その次はC先生といった具合いであった。

私は野球部とテニス部と囲碁部の顧問を務めていたが、野球部は監督をしつつ、テニス部は問題が起こったり保護者から苦情がきたりしたとき要員。囲碁部は年に何度かの全国大会の引率のみで、それも野球部とかぶると別の顧問が行くといった体であった。野球部も5人から6人の顧問がいたので、そりゃ大会中は毎日指導していたけれども大したことはなかった。

教員は教えるのが仕事である。子どもたちが力を伸ばせるように普段から自分自身を鍛えておかねばならない。新聞や本を読み、文化的イベントがあれば美術館や博物館に出かけて教養を深めておかねばならない。もっと言うなら、毎日数時間話すための体力を維持するためにしっかり寝るのも教員の仕事である。だらだら飲んでいる馬鹿は教員には不向きである。

教員が自分の業務、つまり教えること、そして子どもたちの力を伸ばしてやることに専念できる環境を整えることこそが、文科省やその上に立つ自民党公明党議員の仕事ではないか。それをやらずに時期だけ早めても、良い人材は絶対に集まらないし、仮に時期を早めて採用試験を受ける人数が増えるとしても、同時に辞退者数が増えていくだけである。

抜本的に見直さないと絶対に増えない。以前より人の数が減っているのである。どの業界も人が減っているのに教育業界だけが増えていくなんてことがあるわけがない。時期を見直したぐらいで増えると考えるのは極めて愚かなことである。

ある教育系企業の採用担当者にうかがうと、中途採用に元教員や現役教員が殺到するとのこと。現在は昔と違い、教えることができるのは学校だけではない。そういった企業に正採用になると、教員時代と同じように生徒たちに触れることができ、生徒たちと笑顔を交わすことができ、そして教員時代よりも待遇が良いのである。そっちへ流れるのは当然至極である。

人的資源しかない国で、人を育てる仕事にカネをつぎ込まなければどうなるか、文科省と自民党公明党はじっくり考えるべきだ。小手先の対策では何の対策にもならない。師弟関係において、師が疲弊していては弟の力は伸びない。師匠がでんと構えて弟子の学びをじっくりと見守る。そういう環境を作ることが先決である。

木村達哉

追記
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