BLOG / ブログ /

  1. HOME
  2. ブログ
  3. 古文の思い出

古文の思い出

2024.06.25(火) 09:00

6月25日。春はあけぼの、夏は夜。清少納言は『枕草子』の一節である。それぞれの季節で一番良いと思う時間帯を記している。高校時代は暗唱しろと言われ、意味もあまりわからずに覚えたけれども、勉強法が英語と似ていることと、将来は物書きになると決めていたことで、今の子どもたちよりは古文に意欲的であったし成績も悪くなかった。

助かったのは古文の先生が、毎日毎時間古文の文法テストをしてくださったことである。テスト範囲は事前に発表されず、過去の助動詞「き」の活用を書け、副助詞を全部書けなど、テストは日によって異なる。クラスによっても異なる。書けないと居残りで、再テストは別の問題が一題だけ出題される。ヤマを張るには範囲が大きすぎる。要は普段からそんな基本的なことは全部覚えておけという先生からの愛あるメッセージであった。

どこが出るのかわからないから、我々は助動詞の活用をほぼ全員が空で言えたし、助詞の種類も言えた。敬語表現も忘れないようにした。あとは単語だけであるが、古文単語は英単語に比べると信じられないぐらい少ない。したがって、当時の母校が受けていた旺文社模試の古文は、その先生のクラスだけは驚異的に良かった。

時代と言えば時代なのだろうけれど、一度だけ23時まで居残ったことがある。何度受けても合格できないのだ。先生は20分だったか30分だったかおきに教室にやってくる。居残り生徒の数はどんどん減ってくる。腹も減ってくる。泣きそうになってくる。どうして今日に限ってという気持ちが強くなる。ようやっと合格したときには最終電車の発車時刻が近づいていた。

英文法がわかりませんとか古文ってどうして勉強するのですかとかいう質問を受けるたびに、その先生のことを思い出している。先生だって帰りたかっただろうなと今ならわかる。先生だって腹が減っていただろうなとも。そろそろ合格してくれよと笑いながら教室に入ってくるその先生は悪魔にしか見えなかった。

私が教員になったとき、モデルは古文の先生だった。教え方も非常にスマートで、我々を古文の世界に導いてくださったけれども、それ以上に生徒たちにまったく媚びることなく、覚えるべきことは覚えるのだという姿勢を貫かれていた。古文が苦手ってのはワシは怠け者やと世間に発表しているようなもんやでとよく仰っておられた。

さすがにもう退任されているはずだが、お世話になった先生を挙げろと言われれば、中学時代の国語の先生と、高校時代のその古文の先生を挙げる。英語は自分でやったという自負があるが、日本語に関してはそのお二人のおかげである。もしもその先生方が「楽しく覚えよう」とか「成績を上げるコツ」とかいったことを口にするタイプの大人だったら、私は文章を書いて生きていくことなどできなかっただろう。

木村達哉

追記
メールマガジン「KIMUTATSU JOURNAL」を火木土の週3通無料配信しています。読みたいという方はこちらからご登録ください。英語勉強法について、成績向上のメソッドについて、いろいろと書いています。家庭や学校、会社での会話や、学校や塾の先生方は授業での余談にお使いください。