8月19日。ラジオ番組収録のために沖縄へと移動した。伊丹から乗った飛行機は満席。空席がひと席もないほどの満席というのもなかなか珍しい。子ども連れが多く、お盆が終わったとは言っても休みをずらして取ったのだろうと思しきお父さんとお母さんがぐずる子どもたちと奮闘しておられた。
たまたま隣にお座りになった若いお父さんは生後何か月かの赤ん坊を抱いておられた。沖縄は紫外線が県外の3倍と言われている。熱中症よりも日焼けによる火傷で救急搬送される子どもや老人を数多く見てきたので、日陰を選んで歩かれるといいがなぁと思いながらPCに向かっていたら…
カタカタとキーボードを打つ私の右腕になにかが触るのを感じた。
ん?と手を止めて視線を向ける。小さな手が私の右腕の肘の下あたりを握っている。目が合う。赤ん坊はまばたきもせずに私の目を見ている。お父さんに目をやるとお疲れなのだろう、うとうとと眠っていらっしゃった。
子ども好きというわけではない。が、さすがにおそらく歯も生えていないであろう幼子に向かって「触るな!」と怒るほどの阿呆ではない。まん丸の目を見ているうちになんだかおかしくなってくる。にっこり笑う。向こうはじっと私を見ているが、そのうち安心したのだろう、にっこり笑う。言葉はわからないだろうけれど、ありがとうと声をかける。
にっこりとにっこりとで会話をしているうちにお父さんが気づいた。すみませんと言うので、いえいえ、大丈夫ですよ。この子が僕の肘をさわさわしたので、つい話しかけてしまいましたと言うと、こりゃまたすみませんとおっしゃる。妻だけが離れた席になってしまいましてとのことだった。
なんなら奥様と席を替わりますけどと申し上げたが、いえいえと手を横にお振りになった。あと1時間もすれば那覇空港に着陸という時点では荷物の入れ替えなど逆に大変だと思われたのかもしれない。私は足元に置いた鞄1つなのでなんということはないのだけれど。
しばらくそのお父さんと沖縄の話をした。ラジオ番組だの著作だのといった話はもちろんしていない。渋滞がひどくて美ら海水族館までたどり着けないご家族が多い話、日焼けがひどくて夜に救急車で搬送された子どもの話、プールサイドを走っていて大けがをした子どもの話などなど。お父さんは沖縄の渋滞をご存じなかったので、お役に立てば嬉しく思う。
沖縄を訪れる観光客の方々が心に残る旅行を楽しめればと願って飛行機を降りた。
木村達哉
追記
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