11月2日。本当は高知で別の予定があったのだけれど、大変な雨ということで中止になった。19時のフライトをキャンセルし、陸路で帰ろうと思ったら高知高校の先生方が岡山駅まで車で送りますとおっしゃった。いくらなんでも高知から岡山まで送っていただくわけにはと申し上げたのだが、いえいえとおっしゃる。
それではワイワイ言いながらドライブしましょうということになり、2時間ほどのドライブを楽しんだ。と言ってもかなりの雨で、運転してくださっている明神先生には申し訳ないなと思いながら、後部座席に鎮座していた。岡山駅に到着した頃にはバケツをひっくり返すという表現がまさに当てはまる豪雨になっていた。
お礼の挨拶もほどほどに駅構内に飛び込んだのだけれど、今度は新幹線が止まっているという。改札口周辺には黒山の人だかりができていて、さすがに駅員に怒鳴っているような下品な人間はいなかったけれども、電光掲示板を見上げては家族で話し合っているグループがここかしこにおられた。
どうしようもないのだから慌ててもしょうがない。ホームに上がり、最初に来た新幹線に飛び乗ろうと乗車口の近くに場所をとった。電光掲示は間違っています!放送でご案内します!というアナウンス。これは外国の方、特にリスニングができない方には辛い状況だなと思って待っていたところ、1時間後に岡山発ののぞみが到着したので飛び乗った。
それで思い出した。ロンドンのチャーリングクロス駅からトンブリッジに向けて電車に乗る予定だったのに、電車が来ないとアナウンスが言う。どうしたものかと待っていたが埒が明かないのでインフォメーションに行き、指示を仰いだ。詳細は忘れたが、リスニングができないとこの乗り換えは不可能だなと思いながら聞いていた。
改札口に戻るとひとりの女性が困っているように見える。日本の高校生か。日本語で大丈夫ですかと言うとバックパックを背負った彼女は振り返った。電車が来ないようなんですが、掲示板には表示されていなくてと悲しそうに言う。どこに行かれるのですかと聞くと私とは違う方面だったので、彼女をインフォメーションに連れていった。
リスニングは大丈夫ですかと言うと、悲しそうな表情をされたので、私が代わりに聞いて彼女に日本語で説明した。海外に出る際には電車が来ないことなど日常茶飯事なので、最低限のリスニング力は身につけておいたほうが安全ですよと申し上げた。本当にそうですねと言いながら、彼女は何度も頭を下げて旅立っていった。
スピーキングよりリスニングのほうが大切だと思う。喋るほうはジェスチャーでなんとかなるにしても、聞くのが駄目だとかなり辛い。講演ではそういう話をするのだけれど、豪雨の岡山駅で新幹線を待っている間、ロンドンで出会った彼女はどうしているかな、あの後は行きたい場所に行けたのかな、無事に旅行を楽しんだかなと考えていた。Accidents will happen.(事故は起こるものだ)なのだけれど、海外では読み書きだけの英語力じゃあまったく役に立たない。
木村達哉
追記
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