12月2日。文学フリマでゲットした本をさっそく読んでいるが、どれも秀逸である。『三田文学』や『駒場文学』のように慶応や東大の学生が書いた文章の中にはもう作家デビューしてもいいのではないかと思しきものもある。原さんの『東チベットで鳥葬を見てきた』はチベットへの旅行記だが、さすがのひと言である。
好き嫌いはあろうけれど、『沖縄文化論』(岡本太郎著)にがっかりした私はあまり旅行記を読んでこなかった。道を開いてくれたのはなんといっても『深夜特急』(沢木耕太郎著)である。いろんな勉強会で読書案内を配付しているが、この本だけは読んではいけませんよと書いている。読むと旅に出たくなって仕事どころではなくなるからだ。
旅といえばやはり椎名誠の「怪しい探検隊シリーズ」だろうか。ロシアのビールは「馬ションビール」と言って馬の小便よりマズいらしい。馬の小便を飲んだことがないので比べられなかったが、確かにマズかったと書いてあり、ロシアでビールを飲みたくなった。ネットで買えると下卑たことを言う人が最近は多いが、現地に行って飲むからいいのだ。
アメリカの政治事情やドイツの教育の現状について書かれた本は、そりゃ情報を得るという点ではいいのだけれども、その手のでは旅をしたくならない。コロナ前にどうしてもアフリカに行きたくなったのは『バッタを倒しにアフリカへ』(前野ウルド浩太郎)を読んだから。いつかはキリマンジャロを見ながら自然の動物たちを観察したい。
『東チベットで鳥葬を見てきた』を読んで、著者の原さんがちゃんと中国語を話せるようにした状態で行かれたのにも感銘を受けた。現地の言葉(フランス語)を話せない状態でアフリカに行かれた前野さんの物語もいいのだけれど、どうしても鳥葬が見たくて中国語を学ばれた原さんに敬意を表したい。
AIがあるのだから別に外国語なんてと言っている人は、人間の心をわかろうとしていない。スマホが喋る「鳥葬はどこで見れますか」に返事をする現地人はいない。人が話すからこっそりと教えてくれるのである。
ああ、原さんのせいでまた中国に行きたくなった。今まで8回ほど訪問しているが、北京、西安、上海など、けっこうな都市部である。西安の夜、治安の悪い地域で通りにいる全員からじっと見られたときは冷や汗を流してホテルまでダッシュしたけれど、ひりひりする経験をしたいなと思いながら同書を閉じた。旅行ではなく、旅がしたい。
木村達哉
追記
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