出版社 | 角川文庫 |
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著者 | 三浦綾子 |
札幌の中島公園に北海道立文学館があります。立ち寄った僕は、そういえば三浦綾子の小説を長いこと読んでいないなと思い、帰りにさっそく『氷点』を買いました。中学生の頃だったかに読んだときは挫折したんです。我が子を殺された医師、美しい妻と後輩医師との不倫、生真面目な息子、さまざまな登場人物の裏と表の描写が鮮やかで、当時の僕にはとても苦しい気持ちになってしまったのだと思います。
改めて読みました。キリスト教の原罪が主題とのことですが、それとは無関係に、表面的な社会的立場や日々の表情に隠された私たちの心の奥底に潜んでいる感情をこれでもかと浮かび上がらせる小説です。あなたは我が子を殺した男の娘を引き取って育てることはできますか。その娘がとても聡明で良い子である場合はどうですか。そしてその子が殺人犯の娘であることを家族に秘密にしておくことはできますか。
推理小説ではありませんが、ラストのどんでん返しでは驚かされるとともに、僕ならどう生きるだろうと思わされました。僕がこの医師なら、僕が殺人犯の子どもなら、僕が医師の家族ならと思いながら、そして美しい日本語のレトリックに吸い込まれながら、読み進めました。2025年、まだ小説を読んでいない方は本書を手に取っていただきたい。そして、人間の美しさと生きる苦しさを考えていただければと思います。