
出版社 | 新潮クレスト・ブックス |
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著者 | アンドレイ・クルコフ |
ジュンク堂書店那覇店で買い物かごに気になった小説をポンポン放り込んでいたとき、おっと思って手に取った一冊です。なんと可愛いタイトルでしょう。表紙に描かれている少女とその傍らにつっ立っている大きなペンギンの姿。しかし、隣にペンギンがいるなんて生活があるのかと、つい手に取りました。ペンギンを家で飼っているの? ペンギンが憂鬱になるの? そんなことを思いめぐらしながら読み始めました。
ハリコフやオデッサなど、よく知っている都市が登場します。なぜよく知っているのか。ロシアがウクライナに軍事侵攻を始めて以来、毎日ウクライナに関するニュースに触れているせいです。本来ならばよほどの関心が無い限り、ある国の都市名や地図などは覚えないものです。軍事侵攻の終わりが見えないままウクライナの都市名を目に耳にし続けた結果、物語に登場する都市を容易に目に浮かべることができたのでした。
ソ連崩壊後の1990年代に新生ウクライナの首都キエフ(キーウ)で、動物園から引き取ったペンギンのミーシャと孤独に暮らすヴィクトルは売れない中年作家。新聞小説を売り込もうとしていたのに、新聞社から依頼された仕事といえば、存命の人の死亡記事を書くことでした。しかし、その後お悔やみ文を書くと、その人物が亡くなるという不可解なことが起きます。さらに、知人の警察官は意味深な話をした後、自身の娘ソーニャを大金と共にヴィクトルに預け、モスクワへと発ちます。ヴィクトルの身の回りでも、旅先で爆破事件を目にするなどミステリアスなことばかり起こります。
いったんヴィクトルの日常を垣間見てしまうと、あなたはもう目が離せなくなるでしょう。憂鬱症のペンギンは心臓に疾患があることも分かり、手術も必要になります。ソーニャの父親は娘を迎えに来るのだろうか。はたしてヴィクトル自身は無事に暮らしていけるのだろうか。様々な不安を抱えながら読み進めると、そうか…と合点がいきます。たまには海外小説もいいですよ。お勧めの一冊です。