出版社 | 河出文庫 |
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著者 | 飲茶 |
私は現役である外国語大学に合格したのですが、英語をやって生きていくつもりが当時はなかったものですから浪人し、京都の二条城の近くにある駿台予備学校に1年間通いました。当時の京都は学生運動が盛んで、だから予備校の講師も学生運動経験者たちがたくさんいました。彼らの余談は高校時代の恩師のそれとは違って非常に生々しく、大学には闘争に行くのだなという意識をもつに至った駿台生がそれなりに多かったように思われます。
ノンポリの平和主義を貫いている私はも、彼らの語り口調にいつも惹きつけられていました。英語の先生も国語の先生も日本史の先生も、ことあるたびに「闘争」という二字熟語を口にされていて、予備校生に対して人生を説き、時には極めて厳しい言葉で叱咤されていました。今のように受験センタードな授業が行われていたわけではなく、その点では予備校としてのレーゾンデートルが問われるような授業ではありましたが、大いに刺激になっていましたし、学問をすることへの高い熱量を持つに至りました。
そういった先生方がいつも口を酸っぱくして仰っていたのが「哲学を学べ」ということでした。それがたとえ偏差値の高い秀才であっても思考停止に陥っているプチブル的人間など生きる価値さえないのだという言葉に、彼らのように深く物を考えられる人間になりたいと願い、構造主義やポストモダン、あるいは実存主義に関する本を貪り読みました。英語や数学より哲学を愛しました。
大学に入ったあとの私はまさに思考停止に陥った豚で、今から思えばもったいないことをしました。社会に出ると今度は哲学書を読む時間さえ与えられないほどの激務が待っていたので、ニーチェからもハイデッガーからもかなり遠い位置にいました。この数年、思い出したように哲学を読んでいます。やはり続けておくべきだったなと思いながら。
この本は飲茶という会社経営者兼哲学者が書いた非常にわかりやすい哲学書です。彼が書く本は極めてディスクリプティブですので、哲学や思想をかじったことのない人でもかなり簡単に、そして何よりも興味深く読むことができます。哲学を少し勉強してみようかな…そう思われる方にお勧めの一冊です。