出版社 | 岩波文庫 |
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著者 | 大江健三郎 |
ノーベル文学賞作家の大江健三郎氏の小説です。難解と評される大江さんの小説ですが、この「キルプの軍団」は大江小説には珍しい「です・ます」調で書かれているせいか、リズムよく読み進められると思います。語り手であるオーちゃんは高校2年生ながら、ディケンズの「骨董屋」を原書で読むような素敵な青年です。僕は高校2年生の時、中学1年生の英語の教科書からやり直しをしていましたので、原書で小説を読むなんて考えもしませんでした。オーちゃんは自分や周囲の人々が置かれた状況を「骨董屋」や「虐げられし人々」を参照することで理解しようとします。小説で経験し、人生を解釈する高校2年生が現代にもいてほしいなぁと願います。
1994年にノーベル文学賞受賞後、NHKで大江健三郎氏の特集番組が放送されることが度々ありました。その中で僕の記憶に残っているのは、当時執筆中だった「燃え上がる緑の木」を終えたあとは、数年間の読書期間に入ると仰っていたことです。小説家になりたいと思っていた僕は、そうか小説家にとって読むことは書くことにつながり、逆もまたしかりなんだと思いました。小説家は書くことが仕事ですが、数年もの期間を読むことに専念するとはなんて潔いんだと感心しましたし、日々の業務に忙殺されていた当時の僕は、彼を羨ましくも感じました。大江作品をまだ経験していないという人は、この作品から入られてはどうでしょう。